○○画廊の壁には『人』はたしかに掛けられており、またスイッチをいれるとあの顔が浮き出した。安藤の手元にはそこそこの金と、それから『人』が残ったのだ。
 俺がこうなったいきさつを話したなら、たしかに申し分なくめでたしめでたしだろう、と安藤はつぶやいた。
 彼はそっと、部屋の乱雑な椅子の配置を並び替える。安藤の背中は、もう曲がっていなかった。そしてまだよく回らない頭を働かして、一つの結論に達した。
 ここの画廊のドアをくぐる前と、今の俺は別人だ。できすぎた話だが、これまた嘘のような美男子の魔法使いが杖を一振りし、俺に幸運をもたらした。もうすこしだけ、この運を信じてもいいのではないか。

 とりあえず、取りかかることはひとつだ。
 氷河の言っていたように、花を贈ろう。
 九月九日。あの『人』にふさわしいのは白い百合かもしれない。