オレは絶体絶命だった。
いつもの通り白鳥になって散歩していたはずなのに、気付いたらトラバサミに足を取られ、動くこともままならない。
しばらく足掻いていると男がやってきて罠を外してくれた。
喜んだ俺が飛び立とうとすると、男はオレの足を握って放さない。
そのまま肩に担いで歩き出した。
オレをどうする気だ。
羽をばたつかせて必死に男の手から逃げようとしたが所詮全長140cmの鳥の身体では力も知れたものだ。
そうこうしているうちに男の家に着いたようだ。男が戸を開けると赤々と火が燃える囲炉裏が目に入ってきた。
その上には鍋がかかり何かが勢いよく煮えている。
ま、まさか、
男はオレを肩から下ろして鍋に近寄り中を確認すると満足そうに頷いて、それからオレを眺めた。

そ、そんな目でオレを見るな!
オレは背筋が寒くなった。こんな恐怖を味わうのは生まれて初めてだった。
男の手がオレの首にかかる。そして徐々に力が加わって・・…
薄れゆく意識の中でオレは男の顔を垣間見た。
豊かな黒髪に意志の強そうな眼。額に傷のあるそいつは・…
― 一輝!―






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