数日の後、梅雨どきにしては珍しくよく晴れた日のこと、出発の準備をした氷河は駅にいた。 数多くない見送りの中に彼の探していた顔は無かった。 ―必ず戻ってくる。― そう思わないと自分を見失ってしまいそうで怖かった。 同時刻、瞬は駅を見下ろす高台に友人の星矢と居た。 「いいのか? 氷河行っちゃうぜ。」 「……。」 「瞬!」 「え、何?」 「ったく、一輝ン時は列車が出るまで引っ付いてたっていうのに。いいのか?顔見せないで。」 「うん、いいの。」 ―つらいから。― その言葉を飲み込んで瞬は駅を見据えた。 「そうか……」 星矢もそれっきり何も聞かなかった。 ―瞬。― 待合室から出てきて氷河は自分に注がれる視線に気付いた。 恐らく見えなくなるまでどこかで見ているのだろう。そして見えなくなったら泣くのだろう。 わかりきったことだ。 「さあ、早く、」 考える暇を与えない係りの人間が出発を急かしたその時、 「空襲だー!!」 誰かが叫んだ次の瞬間、黒い影が頭上をよぎった。 飛行機の空を裂くような音と、それに少し遅れて銃声と人々の悲鳴が氷河の耳に入ってきた。 放たれた銃弾は柱も砕き、支えを失った屋根は落下するのみだった。 容赦のない落下物は人を次々と飲み込んでゆく。それは氷河とて例外ではなかった。 |