「…瞬」
 俺は瞬の耳元で囁く。
「瞬、風邪をひくから寝るなら部屋に行って寝ろ」
 俺の声に瞬が微かに瞼をふるわせた。 
「………ん、」
 しかし瞬はちいさく何事か答えると、また寝息をたてはじめた。
 俺はため息をついて。
 そしてそっとタオルケットをかけてやる。

 至近距離で瞬を見つめて。
 それで既に相当幸福な気分になっている自分があまりに安易で。
 少し可哀想になる。

 最初から。
 自分には何を選ぶ権利もないのかもしれなかった。
 結局最初から最後までこの手のひらの上で弄ばれるだけの。
 そうと知らずしかし結果としては全くただ弄ばれるだけの。
 それだけの存在かもしれなかった、が。

 それで、かまわない。
 と思う瞬間が確かに此処には存在するのだ。

 この欲望ゆえに。



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