僕は氷河に手を伸ばした。
 霞む視界は次第に暗くなってゆく。
「…君のために…」
 声は。
 この声は音になっているのだろうか。
 空気を震わせることが辛うじてできるほどのこの声は。
 彼の耳に。届いてしまう、だろう、か。
「…君のために死ねないと…思っていたけど嘘だった…」
 氷河が目を見開く。ああ、この声は、まだ声として存在していたのか。


 そう。本当は知っていたんだ。




 皓々と光を放つ、
 十八日月が天に昇っていた。


 そして、僕は、瞳を閉ざした。



END





top