今なら。
あのときに瞬が言ったことが少しだけわかるような気がする。
今もまだ愛だの恋だのそのようなことに関しては全然わからないままだけれど。
けれど人を大切だと、失いたくないと願う気持ちは分かってきたような気がする。
瞬。
かつて彼に命をたすけられたとき。
いっしょにいこう、と言ってくれたあのとき。
とてもうれしかった。
それだけを覚えている。
それを指標にして。現在の苦難を耐え抜くことは可能だろうか。
優しかった彼の影は見いだせず。
つめたいことばで胸を抉る彼の。
それでもその本質が変わってしまったとは思えず。
何故今こうなってしまったのかはどうしてもわからない。
朝起きるごとに誓い直さなければとても挫けずにいることなどできない。
けれどそれよりも忘れることなんてできない。
どれ程につめたくされようとも関係なく。
必要だと思わずにいられない。
失えない。
まるで形状記憶合金みたいで。可笑しくて嗤える。
呪いとも言えるだろうか。
どうしても彼から離れることができない。
ただ───好きで。どうにもならない。
彼をひとりきりにしたくないと希む。
この世でひとりきり。何処とも知れぬ地平にひとりきり立たせることなど決してしない。
だから。
傍にいたいと。
それだけを願う。
何度でも。
短距離走者が何度でもスタートラインに立ちその都度全力で走り出すように何度でも。
誓い直す。
その傍を離れない、と。
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