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その男の子はお砂糖でできていました。 金髪の王様は、甘いものが大嫌い。 これまで一度もケーキやアイスクリームを食べたことがないくらいです。 でも、王様は、お砂糖の可愛らしい様子が気になって気になって仕方がありません。 お砂糖は、微笑むと暖かくて、いつも綺麗な緑色の瞳で優しく王様を見詰めているのです。 「俺は甘いものが大嫌いなんだ。だから、俺がおまえを好きになるはずがない。だいいち国中でいちばん偉い王様が砂糖なんかを好きになっていいはずがない」 困ってしまった王様は、ある日、可愛いお砂糖にそう言ってしまいました。 突き放すような王様の言葉に、お砂糖は泣きそうな目。 お砂糖は、自分から望んでお砂糖に生まれたわけではありません。王様が望むなら、そして、それが可能なら、今すぐお塩になったって構わなかったのです。 (僕は死んでしまおうかしら。僕は、王様が農夫でも羊飼いでも大好きなのに、王様は、僕がお砂糖だから好きじゃないって言うんだ……。僕はどうしてお砂糖なんかに生まれてきたのかしら) ぽろぽろ涙をこぼし始めたお砂糖を見て、王様は大慌て。 そんなに泣いたりしたら、お砂糖が溶けてしまうではありませんか。 お砂糖のいない毎日――。 王様は、考えただけでぞっとしました。 それは、この北の国の冷たいお城が、永遠に春に見捨てられてしまうようなものです。 「泣かないでくれ。おまえが溶けて消えてしまう」 「だって、王様は、僕がお砂糖だから嫌いなんでしょう。嫌いなものは消えてしまった方が嬉しいでしょう」 大嫌いな砂糖が消えるのに、王様はちっとも嬉しくありません。 お砂糖って何でしょう。 甘いものの名前、ただの言葉です。 王様が嫌っていたのは、砂糖という言葉で、名前で、王様が好きになったのは――言葉でも名前でもありませんでした。 「決めた! おまえは今日から砂糖ではない」 「え?」 「俺も王様はやめる」 王様の言葉にびっくりしたせいで、お砂糖の涙はぴたりと止まってしまいました。 そうして、お砂糖はとても甘く微笑んだのです。 「僕は王様が王様じゃなくても、王様が大好きです」 それから二人は、仲良く自分たちの新しい名前を考えました。言葉に振り回されるのはもう嫌だったけれど、やっぱり名前がないとちょっと不便だったのです。 その夜、王様は、生まれて初めて甘いものを食べました。 Fin.
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