氷河にとって、僕は、彼のお母さんと同じものでもあるんだろう。
僕は、彼の母親と同じように、彼のために我が身を投げ出したもの、だ。

僕は、氷河を抱きしめ、同時に、氷河に抱きしめられる。

氷河を僕の身体に招き入れるために彼を誘惑するという、本来の僕には到底できないことを“彼”は、僕の代わりにしてくれた。
それでいて身体の感覚は僕に帰する。
“彼”が支配するのは意思で動かせる身体であって、感覚ではないのだから、それは当然の帰結なのかもしれない。


僕は確かに以前の僕ではない。
だが、今の僕は幸福で、“彼”に僕自身を委ねたことに後悔もなくて――僕は、ずっとこのままでいたいと思い始めていた。

氷河に愛されるのは、本当に心地良かった。
氷河はいつも、まるで、この広い世界に愛する価値のあるものは僕ひとりしかいないと言わんばかりに強く固く、僕を抱きしめる。



そう、僕が望んでいたのは、愛されること。
愛した人に愛され返すことだった。



僕がしたくてもできずにいたことを――誰かに求めたくて、でも口にできずにいたことを――“彼”がしてくれるのなら、僕はずっとこのままでいることに何の不満もなかった。


この、ぬるま湯につかっているような自堕落な時間を貪っていてはいけないのではないか――そう思うと、この日々はいつまでも続くように思えた。

氷河に抱きしめられ、貫かれ、夜毎に気が狂いそうなほどの歓喜を得られる幸福な時間が、いつまで僕の許にとどまっていてくれるのだろうか――そう思うと、そんな日々がいつまでも続くはずがないように思われた。





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