瞬は、氷河でないものに支配されている氷河に逆らえなかった。 拒むことができなかった。 なぜかと問われれば── 瞬が“彼”と同居している間、瞬は幸福だったから。 “彼”は、瞬にはできないことをしてくれる代行者だった。 どこからどこまでが自分で、どこからどこまでが“彼”なのかが、瞬にはわからなかった。 どこからどこまでが氷河で、どこからどこまでが“彼”なのかも、わからない。 そして、“彼”に支配されたはずの氷河は、以前と同じように優しくて、荒々しい。 “彼”に支配される以前の氷河と、被支配後の氷河とで何が違うのかすら、瞬にはわからなかった。 “彼”に支配された氷河が以前の氷河と違うのは、“彼”が瞬の意思を確かめないということだけだった。 瞬に誘われるのを待たないというだけ。 待つ必要がなかった──ともいえる。 “彼”は、わざわざ確かめるまでもなく、瞬がそうされることを望んでいるという事実を知っているのだ。 “彼”は、以前は瞬の中にいたものなのだから。 |