大陸の覇者たる王は、主を失った宝玉を捧げ持つ一人の少年に、目をとめた。

名産は宝石と美男美女と謳われていた小国の宰相は、献上品を捧げる従者たちの選別にも気を遣ったのかもしれない。
その中でも、ひときわ清楚な少年の面差しに、王は、一目で心を奪われてしまったのである。


「宝玉は、西の大陸から食料を買い入れる資金に充てろ。宰相、そなたの国にこれ以上の血は求めぬ。安心するがいい」

王の確約に安堵したのも束の間、宰相は――今は、地上に存在しない国の敗戦処理担当者に過ぎなかったが――続く王の言葉にうろたえることになった。
「血は求めぬ。代わりに、その少年を、私個人のものとして貰い受ける」

「は……? あ、いえ、この者は、献上品と申しましても、下働きの召使いにでもと連れて参った者で――。その……閨房術を心得ているわけでもありませんし、もし、何か粗相をして、王の機嫌を損ねましては――」

国や宮廷に勤めろというのではなく、王個人のものにする――ということが何を意味するのかは、考えるまでもないことである。
宰相に従ってきた者たちの中でも、その少年は特別の美貌の持ち主であり、王の望みは誰の目にも明らかだった。

「構わぬ。気に入ったのだ。その目がいい」

僅か3年足らずのうちに強大な帝国を築きあげた若き王が、その少年の瞳に何を見い出したのかを、宰相は怖れた。
だが、いずれにしても、今、この大陸に、彼に逆らえる者はただの一人も存在してはいなかった。

「は……」
不安そうに――否、むしろ怯えた表情で、宰相は王に頷いてみせることしかできなかったのである。

「そなたの国の──いや、もう、私の国の一郡に過ぎないが――、王の一族も主だった将軍たちも、既に自らの命を絶ったと報告を受けている。そう怯えずとも、“私の”国には、これ以上流すべき血はない。王室の復興のために担ぎ出す人材がなければ、反逆の仕様もないだろうしな。安心しろ。そなたとそなたの国の国民たちは、もはや私の国の臣民だ。反逆を企てたりさえしなければ、働きに応じて厚遇してやる」

「は……」


王に所望された少年は瞳を見開き、無言で事の成り行きを見詰めていた。





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