一度笑ってしまったら、瞬は堰を切られた急流のようなものだった。 氷河の前で、今更、鹿爪らしい顔など作っていられない。 夜ごと、閨での抱擁の前に、氷河はばっさばっさと、それは真剣に求愛の舞を披露する。 笑いを止めることができないまま、瞬は、氷河の腕に身を任せることを余儀なくされた。 そうなると、瞬には、拒絶の態度を装うことも、嫌がる素振りを示すことも、感じていない振りをすることも不可能だった。 なにしろ、爆笑のせいで、瞬の身体は緊張を失い、ほんの些細な刺激にも反応せずにいられないほど、くつろいでしまっていたのである。 氷河に求愛ダンスを踊られてしまうと、瞬には、復讐を考えることもできなくなった。 こんなダンスを真面目に踊りまくる男に復讐などしたら、そんなことをした自分の方が笑いものになりかねない。 氷河の真剣この上ない求愛ダンスに、瞬は過去を忘れた――忘れさせられてしまったのである。 笑う門には福来たる。 氷河の家に伝えられてきた秘伝の求愛ダンスは、やがて人口に膾炙することになり、帝国の隅々にまで広がっていった。 そして、氷河の建てた帝国は、末永く栄えることになった。 王以外のすべての国民が――王の恋人も、王宮の臣下たちも、そして、民衆も――爆笑しながら毎日を過ごしていたのでは、国も栄えずにはいられなかったのである。 Fin.
|