「星矢たちは」
瞬のためのミネラルウォーターのボトルを手に取って、氷河は、あまり興味もなさそうに沙織に尋ねた。

「全員、ホールで酔いつぶれているわ。あ、星矢は食い倒れだけど」
「馬鹿共が」

「…………」
確かに、否定はできない。

ともあれ、楽しい祭りは終わったのだ。
沙織の目的は達成された。

「後始末をしてくるわ。指輪は結局どうするの」
「瞬の指に」
「瞬はすぐに外すでしょう」
「だが、俺が返さなくてもいいと言えば、ずっと大切にしてくれる」

「……そうね」


他人の色恋に干渉するのは、なかなか楽しいことである。
だが、当人同士の楽しみと第三者の楽しみは、決定的にその本質が異なる。

氷河は氷河でそれを楽しみ、沙織は沙織で、やはり楽しませてもらったのだ――この空騒ぎで。



「ねえ、氷河」

ドアの脇に立つ沙織の前をやり過ごし、瞬の部屋に戻ろうとする氷河に、沙織は、ふと思いついたように尋ねてみた。
「瞬がもし、本当に女の子だったら、あなた、どうしてたの」

氷河が、あまり考え込んだ様子もなく、答えを返してよこす。
「俺は、自分が女だったとしても、瞬に惚れるという確信を抱いてるんでね」

それは、どうやら、氷河にとってはどうでもいいことらしかった。
そして、それが氷河にとってどうでもいいことだということが、沙織には、なぜかひどく楽しいことのように感じられたのである。


本当に、それはどうでもいいことなのだ。






Fin.






【menu】