翌日、瞬は、散々迷ってから、星の子学園に足を運んだ。
狭い応接室に自分を招き入れる絵梨衣の姿を見ているその時にも、瞬はまだ迷っていた。


どうすれば誰も――絵梨衣も氷河も、そして、自分自身も――傷付けずに済むのか、その答えを、瞬はまだ手にしていなかったのである。

何も言えずにいる瞬より先に、絵梨衣が口を開いた。
「私、嫌われてるんでしょうか。氷河さんに」

「そ……んなことないです。氷河は誰にでも素っ気ないんです。氷河はいつもあんななの」
落胆で肩を落としている絵梨衣に、瞬はそう答えることしかできない。
しかし、瞬の慰めは、絵梨衣には何の力を与えることもできなかったらしかった。

「私、“誰にでも”の中のひとりにすぎないんですね」
「だ……誰だって、そうでしょう。僕や星矢たちだって、最初は氷河にとっては見知らぬ人間だったんだし」

「瞬さん、優しいんですね」
絵梨衣が、無理に作ったような笑みを瞬に向けてくる。
瞬は、ひどい罪悪感に襲われた。

「……僕は優しくなんかない」

俯くことしかできず、だからそうした瞬の耳に、突然、信じ難い絵梨衣の言葉が飛び込んでくる。
「あーあ、私、氷河さん諦めて、瞬さんに乗り換えようかなー」

瞬は、自分の耳を疑ったのである。
たとえ冗談でも、絵梨衣にそんな軽薄な言葉を言われてしまっては、自分の悩みも迷いもまるで無意味なものになってしまうではないか。
「冗談でもそんなこと言わないでくださいっ! 僕は、あなたが氷河のこと、ほんとに好きなんだと思ったから、だから応援しようって思ったのに!」

「氷河さんが好きなのに?」
「……!」
間髪を置かずに、絵梨衣の答えが返ってくる。

「そして、氷河さんもそう、なんですね?」
「絵梨衣さん……」

瞬は瞳を見開いた。






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