「しゅ……瞬っ !! 」

今日も、瞬は自室に閉じこもっていた。
あの夜桜見物の日からずっと瞬がふさいでいた訳は、これだったのだろう。
あの夜、何者かに不埒なことをされた瞬は、その事実と、その暴行によって傷付いた自分自身とを必死になって隠していた――のだ。

「氷河……?」

後先を考えずに飛び込んでいった瞬の部屋で、瞬に生気のない目を向けられた途端、氷河は、混乱と衝撃に突き動かされるがまま自分がとってしまった行動を後悔した。
瞬が必死に隠し通そうとしていることを暴き立てるのは、瞬を更に傷付けるだけの行為なのではないか――と。

だが、ここまできて、今更あとに引くことはできない。
氷河は、彼からまともな判断力を奪い取ってしまったそれを、瞬に指し示した。

「これは……いったいどういうことだ」
「え?」

それまでぼんやりと椅子に腰掛けて窓の外を眺めていたらしい瞬の頬が、氷河の手にしているものを見て、さっと青ざめる。

「だ……誰に……! どこのどいつにっ! これは、あの花見の夜の写真かっ !? 」
「…………」
「瞬っ!」

声に出してしまうと、どうしても感情を抑えることができず、氷河の口調はひどく険しいものになった。

「わかんない……暗かったし……」
それに反して、瞬の精気が、目に見えて失せていく。

「お……おまえが逃げられないはずがないだろう!」
「だって、僕が本気出したら、怪我させちゃうかもしれないし――」
「だからと言って、こんなことを許す馬鹿がどこにいるっ !! 」

「…………」
氷河にきつく責められた瞬が、瞼を伏せて黙り込む。

その様を見て、氷河は、瞬が何の罪もない被害者なのだということを、遅ればせながら思い出した。
少し、口調を抑える。
怒りを無理に抑え込んだ氷河の声は、僅かに掠れ、震えていた。
「瞬……。その……おまえ、最後までされるままでいたのか? つまり、その……最後まで──されたのか」
「…………」

瞬は何も答えない。
氷河は、また声を荒げざるをえなかった。
「瞬っ!」

真正面から氷河に激昂をぶつけられた瞬は、氷河に嘘をつくこともできなかったらしい。

「……うん」
瞬は、小さく頷いた。






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