「瞬、何の真似だ? やめろ! この気流を止めろっ!」
人がいいのも、仲間を信じるのも、争い事を厭うのも大概にしろと言わんばかりの勢いで、氷河は瞬を怒鳴りつけた。

しかし、瞬が氷河を気流の縛めから解放したのは、彼の言葉に従ったのではなく、どうやら瞬自身の感情の昂ぶりが、瞬を“本気”以上の状態にしてしまったせいだったらしかった。


「氷河なんか……氷河なんか……氷河のばかーっっ !!!! 」
大声で、それだけ叫ぶと、瞬はすぐさま踵を返し、走ってラウンジから出ていってしまったのである。

「しゅ……瞬……?」
なぜ自分が馬鹿呼ばわりされなければならないのかがわからずに、氷河はその場に立ち尽くした。


その氷河の背中に、
「あーあ。泣かせちまった」
と、紫龍が、切れた唇を手の甲で拭いながら、ひどく間の抜けたセリフを投げかけてきた。

「な……泣かせたのは貴様だろーがっ!」
「おまえだ」
「なにっ !? 」

瞬の言動も、紫龍の言い草も、まるで訳がわからなかったが、氷河は紫龍に噛みついていった。
今の彼には、それ以外にできることがなかったのである。


「おまえが瞬を――なんで、その先が言えないんだ、おまえは」
紫龍が、痣だらけの顔で、呆れたようにぼやく。
それから、彼は、更に氷河を混乱させることを披瀝してくれた。

「あの手紙を送りつけたのは、確かに俺だがな。あれはCG加工して作った、架空の画像だぞ」
「なに?」

なぜ紫龍がそんな真似をしでかしたのかと思うより先に、紫龍の告白を聞いた氷河の中には、一筋の光明が射し込んできたのである。
あの画像が作り物だというのなら――

「じゃあ、瞬が乱暴されたというのも――」
実際にはなかったことなのかもしれない――そう、氷河は期待したのである。

事実は、氷河の期待した通りのものではないようだったが。
「それは実際にあったことだ。しかし、暴行犯は俺じゃない」
「……なに?」

「暴行犯は――」
その名を口にする前に、紫龍は、大きな溜め息をひとつついた。

肺に吸い込んだ息をすべて吐き出してから、彼は、馬鹿につける薬はないと言うような顔をして、
「おまえだ」
――と言った。






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