氷河の心当たり。 それは、その髪の主は、アイルランドに住む者に違いないという、実に大雑把な心当たりでした。 以前、コーンウォールとアイルランドの戦いで、氷河と一騎打ちをした騎士がそういう色の髪をしていたのです。 氷河は、あの騎士の一族の姫を連れてくれば万事が解決するに違いないと、極めて単純かつ楽観的に考えたのでした。 その戦いの時、氷河は、事情があって不覚をとり、実はその騎士に負けたのです。 不思議な色の髪をした騎士は、けれど、落馬して怪我を負った氷河を戦場の外に連れていき、敵であるにも関わらず優しく手当てをしてくれました。 アイルランドの騎士の冑の下には、それは幼く可愛らしい顔があり、氷河は最初は、その騎士を、どこぞの姫君が酔狂で騎士の格好をしているのかと思ったくらいでした。 氷河は、その騎士にもう一度会いたいと思っていました。 怪我のせいでろくに言うこともできなかった礼を告げたいとも思っていました。 そして、彼の妹君なり姉君なりが伯父であるコーンウォール王の后になってくれれば、彼とも親しくなれるに違いないと考えました。 まあ、その騎士は、氷河がそう考えても不思議ではないくらい――要するに、可愛らしかったのです。 そういう安直な考えのもと、氷河は、かなり浮かれ気分で、海の向こうのアイルランドに向けて船出したのでした。 |