「氷河、好きだよ。大好き」
僕の呪文で、氷河は、僕の魔法にかかる。

(ほら、氷河も人間でいることをやめて。邪悪を邪悪と思わない世界の住人になろうよ。そして、僕の仲間になって――)
魔法にかかっている氷河は、僕を抱きしめる。
人間の皮を脱ぎ捨てて、氷河は、少しずつ僕の世界に慣れ親しんできている。

でも、僕の魔法は、太陽の光には弱いらしくて。
朝が来ると、氷河は、僕の手の中から擦り抜けて、また普通の人間に戻ってしまうんだ。

僕は、きっと、低級の悪魔なんだろう。

悪魔の世界にもヒエラルキーというのがあって、帝王だの大公だの公爵だの貴公子だのがいるんだって。
僕は、きっと、その階級のうんと下の、せいぜい使い魔か何かなんだ。
僕は、夜の闇の力を借りないと魔法も使えない、非力で情けない悪魔だから。





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