「彼より、君の目の方が重症だな。泣きはらして、真っ赤だよ」

その夜、太陽神の館の庭の片隅に隠れて泣いていたシュンを見付けてくれたのは、ヒョウガではありませんでした。
シュンは、ゆっくりと、その視線を、この神殿の主の上に巡らせたのです。

「彼の頭の中は、どこぞの卑怯な姫君のことでいっぱいのようだが」
太陽神が、この世で起きるすべての出来事を知っているという噂は、どうやら事実のようです。

シュンは、彼に力無い微笑を返しました。
有力な神を畏れるほどの気力さえ、今のシュンには残っていなかったのです。
「でも、僕は大事なものが見えているから、いいんです」

「――君は、メロペ姫の近くで働いていたんだろう? メロペ姫が父王の企みを承知していたことを知っているようだが」
「姫君は……ヒョウガの美質を虚心に見ることを邪魔されているだけなんです。王様に、身分も財産もない人だと吹き込まれて、真実が見えなくなっているだけ。悪い人ではないんです」

「そういう盲人は、私にも治せないな」
肩をすくめて、そう告げてから、太陽神は重ねてシュンに尋ねてきました。

「しかし、いいのか? あの様子では、彼は、目が見えるようになったら、もう一度キオス島に戻るだろう。君はお払い箱だ。恋に目がくらんでいる彼には、彼をここに連れてくるまでに君がどれほど苦労を重ねたかも見えていない」

太陽神が、ひどく残酷で確かな未来を言葉にします。
シュンは俯き、唇を噛みしめました。
それから、まるで自分自身に言い聞かせるように、シュンは答えました。

「いいんです。僕は、自分がそうしたいから、そうすると決めたことをしただけだもの。僕は、他の誰でもない、僕自身のために、ここまでやってきたんです。ただちょっとだけ──」

これほど辛い恋を、どうして自分は諦めてしまえないのか――シュンには、その訳がわかりませんでした。
わざと我が身を苦しみの中に投じるような真似をして、悲しみに酔っている自分自身が滑稽にも思えました。
かといって、そこから逃れる術を見付け出すことは、どうしてもシュンにはできないのです。

「ちょっとだけでも報われたらいいな……って、勝手に期待しただけなんです」
ヒョウガが幸せになってくれるのなら、その側にいるのが自分でなくてもいいはずだと、必死に自分を諭し続けてきたシュンの本音。

同情するような太陽神の眼差しに触れて、その本音を言葉にしてしまった途端に、シュンの瞳からぽろぽろと涙の雫が零れ落ち、それはシュン自身には抑えようがありませんでした。

「私なら、迷わず、君を選ぶよ」
太陽神が、涙の止まらないシュンの肩を抱き寄せて、慰めるように囁きました。






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