俺が、『俺の全部』の意味を知ったのは、それから約6時間後。 瞬の誕生日の翌日未明、俺たちは俺たちの巣に帰宅した。 まだ誰も起床していない城戸邸には、秋の朝の冷えて澄んだ空気が漂っている。 俺の部屋に入るなり、瞬は、甘えるような仕草で俺の胸に指先で触れながら、 「仲直りしよ」 と言ってきた。 瞬の言う“仲直り”の意味は考えるまでもなく、そして、それは俺の望むことでもあったから、俺は早速、朝の光が跳ねているベッドの上に瞬を押し倒し──悪夢は、そうして始まった。 それから丸々6時間、瞬は俺を解放してくれなかった。 「瞬、頼む。いい加減に寝かせてくれ。俺は夕べ、おまえを捜し続けて、ずっと外を走り回っていたんだぞ……!」 俺の声は、悲鳴すら通り越して掠れきっていた。 哀れな俺の訴えへの瞬の答えは、 「だめ。氷河は全部、僕のものなんでしょ? まだできるでしょ?」 と、冷酷非情の極みである。 争い事と人を傷付けることが大嫌いな、心優しいアンドロメダ星座の聖闘士の誕生日の翌日。 最後の力を振り絞って俺自身を瞬の中に捻じ込みながら、俺は、金輪際、瞬の誕生日を忘れることだけすまいと、朦朧とした意識の中で、堅く堅く決意したのだった。 Fin.
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