絵の納品先は、銀行の貸し金庫だった。
あの子は、自分の身元が知れるのを余程怖れているらしい。
もしかすると、俺の絵とその売り方を批判しまくっている画壇のお偉方の身内の者なのかもしれない。

納品先の銀行に尋ねると、守秘義務があるので、金庫の借り主の個人情報は教えられないという返事だった。
俺は、借り主が絵を引き取りに来た時に、収めた品に不都合があったから連絡を入れるように伝えてくれと、行員に頼むことしかできなかった。



――天は俺を見放していなかったらしい。
銀行に伝えておいた俺の携帯電話の番号に、その日のうちに、あの子から連絡が入った。

「何か、不都合があったと聞いたんですが……」
その優しい響きの声を聞いた時、俺は、世界中の人間に――あの気に食わないマスコミ連中にも、無能なアシスタントにも――感謝したい気分になった。

内心の興奮を極力抑えて、俺は、あの子と、再会の約束をとりつけた。






【next】