神官聖別の儀式は、神の配偶者選びの儀式と同じ時期に、2年ごとに行なわれる。 神の配偶者選びも、王を選ぶ時と同様に聖鳥を飛ばすのだが、その際には精霊ラマッスではなく、シェドウの聖鳥が放たれる。 神殿で神官たちの手によって聖別された白い鳥が、最初に羽を休めた家に住む処女が、神の配偶者となることになっていた。 聖霊シェドウに選ばれた乙女は、2年間、神の配偶者として、ナブ神殿の最上階の塔で、神の訪れを待つことになる。 神官聖別の儀式は、神の配偶者選びの儀式の前座のようなものだった。 「そんな大したことじゃないよ。贅沢な暮らしなんて、僕にはもともと望むべくもないことだし、恋も──そんなのは、もういいの」 少し寂しげに、シュンは、今はこの国の王となった昔の友人の前で呟いた。 ふざけて、ほんの弾みで、たった一度キスを交わしたことがあるだけの昔の友人に。 「これで、会いたい時にヒョウガに会えるんだから、僕は――」 「…………」 確かに、今のシュンは、バビロンの都の下町でつましい生活をしていた時よりは、ずっと上等な服を着ている。 神官の身分を与えられれば、一生暮らしに困ることもない。 享楽に浸るバビロンの街の富裕者たちは、その享楽の罪を神に大目に見てもらうために、神殿への寄進や奉納品に糸目をつけることはなかったし、それ故、神殿の神官たちは、王をしのぐほどの富と発言力を有していた。 ある意味で、神殿は、王への対立者でもあったのだ。 シュンが、王の採ろうとしている政策に否やを唱えたり、王に対立する勢力に加担するようなことがあろうとは思えなかったが、ヒョウガはひどく複雑な面持ちになった。 ヒョウガの目には、ずっと会うことの叶わなかった仲間と、数ヶ月ぶりに言葉を交わすことのできる現状を、シュンは単純に喜んでいるように見えた。 実際には――。 こうしなければ二度とヒョウガに会えないかもしれないと思い詰めて、シュンはこの方法を選んだのだったが。 |