彼が本当に神なのかどうかを疑ったヒョウガが、この塔を調べさせようとしたということは、耳の早い先代の神の配偶者から聞いていた。 その情報をシュンの許にもたらしてくれた彼女自身も、いまだに彼が“神”なのかどうかには疑念を抱いているようだった。 ヒョウガと神殿の神官たちの間では、毎夜シュンを抱きしめている“神”のことで、丁々発止のやりとりが続いているらしい。 「新王は、神殿の権威を貶めることにやっきになってるみたいね。バビロンの街じゃあ、寄ると触ると、その話ばっかりよ。夜な夜な神殿の塔に現れる男は、神か、神でないものか……って。まあ、結局、誰も心底から神を完全に否定することはできないんだけど、でも、塔に忍んで来るのが神でないと思ってる人たちは多いみたい。みんな、神殿の神官たちの狂言じゃないかって疑ってるわ」 バビロンの都の人々は、神を畏れ信じてはいても、神殿や神官を信じているわけではないらしい。 彼女の話に、なぜか落胆を覚えてしまった自分自身を、シュンは訝った。 「新王は、神殿との間に一波乱起こす気なのかもしれないわね。今度の王様は急進的な上に峻烈よ。すごく強大な王朝を作るか、急ぎすぎて潰れるか、そのどっちかでしょうね」 彼女の実に冷静で客観的な推測と判断が、シュンを不安にさせる。 シュンの不安を自分自身のためのものと思ったのか、彼女は、シュンを力づけるように笑顔を作った。 「王は、この塔にやってくるものが本当にナブ神かどうかを疑ってるみたいだけど、そうされればされるだけ、神殿側はあなたを庇わなければならなくなるわけで、だからまあ、あなたは安心していていいわよ。たとえ神でなかったとしても、神だったことにしてしまうわ、あの神官たちは」 「…………」 そのために――神官たちに神の配偶者を庇わせるために――ヒョウガはわざと“神”を疑ってみせているのかもしれない――と、シュンは思った。 でなければ、ヒョウガの敵にまわってしまったのかもしれない自分が辛くてやりきれない。 彼女に、王宮でのヒョウガの様子を聞いていると、シュンはひどく緊張し、疲れた。 ヒョウガがこの国に築こうとしているものがいったい何なのか、そのぼんやりとしたイメージを思い描くことすら、シュンにはできなかった。 それは、権謀術数や、建前と真の目的の錯綜とでできている。 所詮、自分はヒョウガの力になれるような器ではなかったのだろう。 ヒョウガは、だから、自分を彼の許に呼んでくれなかったのだろう。 シュンはそう思った。 そう思うしかなかった。 |