シュンは、神の配偶者と神だけが入ることを許された部屋の小さな窓から、ぼんやりと、白く丸い月を見詰めていた。 バビロンの都を白く照らす月。 “神かもしれないもの”と細やかな情を交わすようになってから見る、二度目の満月だった。 “神かもしれないもの”は、シュンにはあれ以来ずっと優しく接してくれていた。 無論、身体を交えている時に獣のように猛ることはあったが、シュンはそれを恐ろしいと感じることもなくなっていた。 シュンも、その時には、彼の胸の下で我を忘れることが多くなってきていたし、むしろ、彼が猛々しければ猛々しいほど、シュンの歓喜は深まり、恐怖は薄れていくのだった。 獣から“人”に戻った後には、彼は特に優しく、シュンは、ゆったりと過ぎていったこの二ヶ月間に、総じて穏やかな日々だったという印象を抱いていた。 その穏やかな日々に、ふいに不安の影が射してきたのは、先の王が攻略したエルサレムの残党たちが旧国境付近で反乱を起こしたという、辺境の街からの報告だった。 ヒョウガは、それが当たり前のことのように、討伐軍を編成し、それを率いて、この王城を出ていった。 王の身を守り飾る鎧すらつけずに、身軽にも程があると言いたくなるような軽装備で。 馬上のヒョウガの姿とバビロニアの軍が、バビロンの街の大路を通り、その先の砂漠に入り、やがて消えて見えなくなるまで──見えなくなってからも、しばらく──シュンは、彼を飲み込んでしまった地平線を見詰め続けていた。 エルサレムの有力者のほとんどは、先の戦いで捕らえられ、あるいは処刑された。 かの街で暮らしていた者たちはこの都に連れてこられ、今では大半がこの街の住民として暮らしている。 廃墟と化したエルサレムの都に帰還するよりも、この街で生きていこうとしたイスラエル人がほとんどだったのである。 拠点であるエルサレムを失ったイスラエル人たちの残党は、数も少なく、持てる力も微力だろう。 ヒョウガは、この遠征を、国の民や官吏・神官たちに、自分の力を見せつけるための示威行為の一環として計画したようだった。 国の王を選ぶ仕組みが仕組みなだけに、彼は、留守中の造反等の心配も要しない。 ヒョウガは、遠征の成果のみを念頭に置き、その失敗など考えてもいないのだろう。 そして、おそらく、彼の目論見は成功するに違いなかった。 それでも、戦は戦である。 万一のことがあったら、もう会えないかもしれない――のだ。 最悪のことを懸念しないではいられないシュンに、だが、ヒョウガは、たった一言の言葉を残すこともなく、砂漠の彼方に消えてしまったのだった。 |