お医者様でも草津の湯でも






「瞬。相談があるんだが」

氷河にそう言われた時、いつもより濃い色を呈している彼の瞳を見て、瞬はなぜか妙な胸騒ぎを覚えたのである。

氷河に相談事を持ちかけられるのは、瞬は、それが初めてのことだった。
それは、瞬に限ったことではなかったろう。
氷河は何でも自分一人で決めるタイプの男で、彼が他人に何事かを相談するということ自体が、滅多にあることではなかったのだ。

これは相当の重大事である。
瞬は、気を引きしめると同時に、氷河に仲間として頼られていることに幾許かの喜びを覚えつつ、
「何? 何でも相談に乗るよ」
と、少々気負い込んで答えた。

そんな瞬に素早くちらりと視線を走らせると、氷河は、一時の逡巡のあと、おもむろに彼の悩み事を口にした。
すなわち、
「つまりだ。俺にも、人並みに好きなコができたんだ」
――と。

「え?」
虚を突かれた格好で、瞬は僅かに顔をあげた。
氷河の“相談事”が、あまりに“人並み”なことだったので、瞬は逆にそれをひどく意外に感じたのである。
氷河に好きな人ができたなら、彼は、それこそ、相手も自分を好きなものと決めつけて、強引に物事を推し進めていく――ようなイメージが、瞬の中にはあった。
その手のことで氷河が他人に相談を持ちかけるなど、彼らしくないことこの上ないと、瞬は思ったのである。






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