狩猟と純潔の女神が氷河と瞬に科した試練は、思わぬ副作用を瞬にもたらしてくれていた。 虫籠の中から解き放たれてどこかに飛んでいったはずのトンボが一匹、なぜか舞い戻ってきて、瞬の肩にとまったのだが、瞬は、その生き物を見ても、以前のように拒否反応を示すことがなかったのである。 「あれがショック療法になったのかな。僕、トンボ、全然平気になっちゃったみたい」 瞬のその言葉を聞いた氷河の瞳が、ぱっと明るく輝く。 彼が、瞬のトンボ恐怖症克服を喜んだのはもちろん、 「これで思う存分青カンが――いや、秋の行楽が楽しめるようになるな」 という理由からである。 「うん」 発狂寸前のサクリファイスを愛の力で(?)乗り越えたばかりの瞬は、氷河のその邪心をたしなめる気にはならなかった。 星矢と紫龍も同様である。 今の彼等の胸中では、氷河のスケベ心を非難する気持ちよりも、平和な世界を襲った大いなる危機を回避できた満足感と安堵感の方が大きかった。 「まあ、とにかく、めでたしめでたしで」 「劇場版でも、こういきたいものだな」 「潔癖症の女神も、氷河の本能とスケベ心には勝てなかったわけだ。オリンポス12神とか、月の女神とか言っても、案外大したことねーのな」 一般人には、氷河に勝ててしまうことの方が恥辱なのかもしれないということに、どうやら星矢は思い至っていないらしい。 「所詮、欲求不満女のヒステリーだしなー」 そう言って能天気に笑う星矢とその仲間たちにすっかり無視された 何気に瞬の腰にまわされて、微妙にいやらしい動きを見せている氷河の手が、女神の怒りに油を注ぐ。 「欲求不満女のヒステリーで悪かったわねーっっ !! 女のヒステリーを舐めるなよ、アテナの聖闘士共〜っっ !! 」 彼女のこの怒りが、来年の劇場版聖闘士星矢でどう発散されることになるのかは、まさに神のみぞ知る、である。 『聖闘士星矢 天界編序奏〜OVERTURE〜』 2004年2月公開予定。 前売り券は、11月22日発売です。 Fin.
|