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その古い館に入ると、玄関の正面ホールに、一幅の絵が飾られているのがまず目についた。 どちらに転ぶのかわからない運命の球の上に座り込んでいるひとりの女性。 彼女は目隠しをされ、一本だけ弦の残った楽器を奏でている。 その楽器に寄りかかり、支えられるようにして、彼女は、残された一本の弦で必死に何かを奏でようとしていた。 客人を出迎えるホールにふさわしい作品とは思えない。 暗く、絶望的な絵だった。 「この館に、俺以外の客はないんだろうが、それにしても――」 いったい誰が、どういう意図で、この絵をここに掲げたのだろう。 考えられるのは、シュンの母か、ヒョウガの母。 そのどちらかでしかなく、その2人のどちらだったとしても、彼女がこの絵を選んだ意図は、おそらくあまり陽気なものではない。 ヒョウガはその先を考えることを中断して、暗い絵から視線を逸らした。 「ヒョウガ!」 ヒョウガの訪れを知ったシュンが、エントランスホールに続く階段を駆けおりてくる。 母を失ったばかりのヒョウガにとっては、唯一の親族である5つ年下の ヒョウガが、この従弟に会うのは1週間ぶりだった。 |