従弟の存在を知らされたヒョウガは、内密に、シュンが暮らしているという辺境の館を赴いた。
それが半年前のことである。

訪れた館で出会った従弟は、ろくな教育を受けさせてもらえなかったとみえ、宮廷での作法等も全く心得ていない少年だった。
彼は、身分の概念さえ持っていなかった。
3歳で父を亡くしてから12年、母親と二人きりで、訪れる者とてない館に閉じ込められ、その母とも10歳で死別したとなれば、それも無理からぬことだったろう。

だが、シュンは、素直で優しい心の持ち主だった。
教養はなくても知恵はあり、その身に思い遣りも備えていた。
その姿は、野に咲く白い花のように可憐で、ヒョウガの父が心惹かれていたという、彼の母親の美貌を彷彿とさせるものがあった。

当初、ヒョウガは、シュンを王宮に連れ帰り、一国の王子にふさわしい教育を受けさせてやろうと考えていたのである。
だが、2度3度と、シュンの許を訪れるうちに、自然の野に咲いている清らかな花を、汚れと苦悩に満ちた俗世に投げ込むことに、ヒョウガはためらいを覚え始めた。

母親を亡くしてからのシュンは、おそらくずっと孤独だったのだろう。
世話人に雇われたあの老女は、シュンの話し相手にもならなかったに違いない。
シュンは、いつも嬉しそうにヒョウガを迎えてくれた。

10歳で母を亡くした時に止まってしまったシュンの時間が、ヒョウガと出会って再び動き出した――。
それが、事実だったのかもしれない。






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