確かに、たった一本だけの弦は――希望というものは――強大な力を持っていた。 これ以上の力があるだろうか。 シュンは、ヒョウガが望むように、ヒョウガを望んでいてくれたのだ。 なぜヒョウガが笑っているのかを理解できず不思議そうな顔をしているシュンの前で、気が済むまで笑い終えた時、ヒョウガはひどく爽快な気分になっていた。 何もかもに、ふんぎりがついたような気がした。 たった一本の弦。 たった一つの希望。 それがあれば、確かに人は生きていける。 そして、それだけが、人を生かし、人を幸福にしてくれるものなのだ。 「シュン。俺はバーデン大公国の王座から退こうと思う」 「え?」 「王の地位にこだわることが無意味だと、なぜ俺は今まで気付かずにいたんだろうな。一介の民間人としてでも、国と国民のために努めることはできるのに」 「ヒョウガ……?」 ヒョウガの口にする言葉の意味を、シュンは理解しかねているようだった。 だが、シュンは、ヒョウガが、 「ここに来てもいいか」 と尋ねると、間髪を置かずに、ぱっと瞳を輝かせた。 「ヒョウガ……ずっと僕の側にいてくれるの?」 ヒョウガが頷くと、シュンは頬を上気させ――それから、少し不安そうに瞼を伏せた。 「あの……でも、あの可愛い人は――」 「ああ、あれか? あれは――」 ヒョウガは抽斗の中から鏡を取り出して、そこに自分たちの姿を映し出した。 “希望”を手に入れて、晴れ晴れとした表情の金髪の男が、彼の希望と一緒に、そこに映っていた。 Fin.
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