「……どう思う? ああいうの」
「まさか、あの氷河が、マトモな目玉焼きを作れるようになる日が来ようとは思ってもいなかったが」
「そういうことじゃなくってさ!」

紫龍は単なるコメントのつもりでそう言っただけだったのだが、星矢はそれを、問題をすり替えようとする言葉と解釈して、紫龍を怒鳴りつけた。
本当は星矢は、氷河当人を怒鳴りつけたかったのである。
だが、氷河が仲間の叱責をまともに聞きもしないだろうことは、氷河を怒鳴る前からわかっていたのだ。

「瞬、起きあがれなくなるくらい無理させられてるんだろ? 今、ここに敵が現れたらどういうことになるか、考えただけでも──」
星矢はその先の言葉を口にすることができなかった。
『どういうことになるか』を考える必要がなくなったからである。

星矢が氷河への不平を口にした、まさにその時。
どっかーん★ と、地震にしては妙に局地的な破壊音がして――要するに、星矢の懸念は現実のものになったのである。

「おい、嘘だろっ !? 」
不吉な例え話など、口にするものではない。
星矢は掛けていた椅子から立ちあがり、ヤケになったような怒声を響かせた。

「星矢! アテナはともかく、瞬の部屋だけは死守しろっ。やりすぎで起き上がれずにいる聖闘士がいるなんてことが外部に漏れたら、アテナの聖闘士は世間の笑いものだ!」
「お……おうっ!」
紫龍が実に的確な忠告を発し、星矢は反射的に紫龍に大きく頷いた。
そして、ひどく情けない気分になる。

アテナの聖闘士ともあろうものが、何と切実かつ馬鹿げた理由で、闘いに挑まなければならないことか。
かつて、こんな理由で、敵の殲滅を余儀なくされた聖闘士が存在しただろうか。
もし存在したのなら、星矢は彼と膝を突き合わせて愚痴を言い合いたいところだった。






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