楽園伝説 II






もともと俺は、俺の親父がしでかした卑怯と、自分が過ごしてきた恵まれた時間を、瞬とその父親にあがなうために、この島にやってきた。
そのために相応の時間と金をかけることも覚悟していた。
無論、過ぎた時間を取り戻すことができないことや、失われた信頼や“許し”を金で買い戻すことができないことくらいは、わかっているつもりだった。

わかっている“つもり”。
そう、俺は、その“つもり”でいただけだったんだ。
だから、自分に余裕がある時には、人に同情する振りができ、救済の手を差し延べることもできるが、切羽詰った時には、自分の都合を最優先させる。

だから、こういうことをしでかす。
親父と同じように。
そして、後悔するんだ。

瞬に謝罪の言葉を告げ、頭を下げて、金を渡して――それで、何の解決になるだろう。
瞬には、それは、オレンジの実ひとつほどの価値もないものだ。
『おまえを好きだから』なんて言葉も、言い訳にすらならない。
そんな言葉で俺のしたことが正当化されるなら、人の心は傷付くことを知らず、人の歴史はもっと単純だったに違いない。


瞬とのそれが、あまりに良くて、この島で巡り会った得難い宝に狂喜し、俺は瞬に随分無体なことをした。
瞬がいつまでも俺の下から逃げようとし続けることが、かえって俺を煽ることになった。
ほどほどでやめるということを、瞬は俺にさせてくれなかったんだ。

傍若無人の限りを尽くして、やっと気が鎮まった俺が瞬の身体を解放すると、瞬はその隙を逃さずに――それでも、いつもの敏捷さの半分もないスピードで――俺の手の届く場所から逃げていった。
これだけのことをされてまだ動けるのかと、俺はむしろ瞬の体力に驚きを覚えたが、瞬にしてみればそれは、命の危険を感じた小動物の必死の逃亡だったに違いない。

「瞬ー!」
マトモな人間に戻った(つもりの)俺は、瞬の姿を島中捜しまわったが、瞬をかくまった森は、何の答えも返してくれなかった。

この島を熟知している瞬が、命が懸かっている(と瞬が思い込んでいる)隠れんぼをしているんだ。
息を潜め、気配を殺している瞬の姿を、俺が見付け出すことは不可能だった。






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