もともと俺は、俺の親父がしでかした卑怯と、自分が過ごしてきた恵まれた時間を、瞬とその父親に そのために相応の時間と金をかけることも覚悟していた。 無論、過ぎた時間を取り戻すことができないことや、失われた信頼や“許し”を金で買い戻すことができないことくらいは、わかっているつもりだった。 わかっている“つもり”。 そう、俺は、その“つもり”でいただけだったんだ。 だから、自分に余裕がある時には、人に同情する振りができ、救済の手を差し延べることもできるが、切羽詰った時には、自分の都合を最優先させる。 だから、こういうことをしでかす。 親父と同じように。 そして、後悔するんだ。 瞬に謝罪の言葉を告げ、頭を下げて、金を渡して――それで、何の解決になるだろう。 瞬には、それは、オレンジの実ひとつほどの価値もないものだ。 『おまえを好きだから』なんて言葉も、言い訳にすらならない。 そんな言葉で俺のしたことが正当化されるなら、人の心は傷付くことを知らず、人の歴史はもっと単純だったに違いない。 瞬とのそれが、あまりに良くて、この島で巡り会った得難い宝に狂喜し、俺は瞬に随分無体なことをした。 瞬がいつまでも俺の下から逃げようとし続けることが、かえって俺を煽ることになった。 ほどほどでやめるということを、瞬は俺にさせてくれなかったんだ。 傍若無人の限りを尽くして、やっと気が鎮まった俺が瞬の身体を解放すると、瞬はその隙を逃さずに――それでも、いつもの敏捷さの半分もないスピードで――俺の手の届く場所から逃げていった。 これだけのことをされてまだ動けるのかと、俺はむしろ瞬の体力に驚きを覚えたが、瞬にしてみればそれは、命の危険を感じた小動物の必死の逃亡だったに違いない。 「瞬ー!」 マトモな人間に戻った(つもりの)俺は、瞬の姿を島中捜しまわったが、瞬を この島を熟知している瞬が、命が懸かっている(と瞬が思い込んでいる)隠れんぼをしているんだ。 息を潜め、気配を殺している瞬の姿を、俺が見付け出すことは不可能だった。 |