それはどう考えても、痴漢行為――だった。 それ以外の何ものでもなかった。 瞬は思わず、全身を総毛立たせたのである。 腹が立つやら情けないやら――という気持ちもあったが、それ以前に こみあげてくる不快感と悔しさで、頭に血がのぼっていくのがわかった。 かといって、自分が痴漢の標的にされていることを氷河に訴えるのも悔しいし、恥ずかしい。 瞬はジレンマに陥り、そのジレンマのせいで、結局瞬は何の行動を起こすこともできなかった。 不届き極まりない犯罪者は、それで瞬を内気な獲物と思ったらしい。 電車の揺れを利用して瞬の身体の表層を掠めるばかりだったその手は、数分後には、瞬の尻を撫でて、後ろからそのまま瞬の脚の間に入り込んできた。 (あ……っ!) 瞬は、思わず声をあげそうになり、必死にそれを飲み込んだ。 犯罪者の手は、微妙な動きを続けている。 その手と指は、あくまで瞬の××(?)に執着していて、前にまではやってこない。 下劣な犯罪者が、瞬が男だということに気付いているのかどうかは疑問だった。 だが、そんなことは、この際問題ではなかったのである。 瞬は、大声をあげたかった。 しかし、男の身として、それはやはり恥ずかしい。 そして、悔しい。 本音を言うと、恐くもあった。 鉄壁の防御力も、電車の中では何の役にも立たない。 混雑した電車の中では逃げ場もない。 (や……やだ……) 図に乗った犯罪者の指はますます細やかに動き始め、やがて瞬は、それ以上その指の動きに耐え続けることができなくなった。 「ひょ……氷河……」 泣きべそをかいて、 電車が6つ目の駅のホームに滑り込んだ時だった。 |