その頃、いわゆるあの世では。

「カミュ。アルビオレが戻ってきたら、今度は私が氷河の身体を借りてみようと思うんだが」
「貴様の魂胆は見え透いている。あわよくば瞬とナニかするつもりだな。そういうけしからん行為は、この私が決して許さん!」

カミュに下心を看破されたミロは、目いっぱい顔をしかめた。
瞬と・・、ね。弟子の恋人に岡惚れでもしたか、カミュ」
精一杯挑戦的に言ってのけたミロは、水と氷の魔術師の頬が染まる様を見て、逆に呆けることになってしまった。

まさかもしやのこの事態に声を失ったミロの脇から、牡牛座の黄金聖闘士が豪快に言い放つ。
「なら、俺が、アンドロメダのところに行こう。一度、ああいう華奢な身体になってみたかったんだ」

ミロと違って下心のないアルデバランの提案に、カミュは、場を取り繕うような笑みを作った。
「それは面白そうだな。氷河の顔が見ものだ」

瞬に牛が憑依することには、多少不愉快な気持ちを抱かないでもなかったのだが、糞生意気な不肖の弟子の動転する顔を思い浮かべると、それはそれで愉快である。
カミュは、俄然、乗り気になった。

「それもよいアイデアだが、どうせなら、最も神に近いこの私が、カミュの不肖の弟子に乗り移るという皮肉はどうだ?」
「いや、アンドロメダは、相手が誰であれ、そつなく接してしまうだろう。ここはむしろ、アンドロメダの方に乗り移って、キグナスをやり込める方が面白いかもしれないぞ」
「なるほど、それも一理あるな」

黄金聖闘士たちの楽しいディスカッションは、いつまでも終わる気配がない。

天国というところは、なかなかに楽しいところのようだった。
彼等のいる場所が天国なのならば──だが。






Fin.






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