数年前に両親を失い、この山の唯一の住人になってから、瞬はほとんど下界との接触を断っていた。 とはいえ、一度だけ、瞬はそれを試みたことがある。 2年程前、14歳の時、瞬は、とある国の片隅に住んでいた年老いた職人に、青銅の作り方を教えた。 銅とその10分の1の量の錫を混ぜ合わせ、鋳造性、耐食性、耐摩耗性に優れた合金を作り出す方法を。 彼が、その技術を生活用品の製作に役立て、彼の作ったものが人間たちの生活を豊かにしてくれることを、瞬は期待していた。 だが、彼は、瞬に与えられた冶金術を武器の製作に用い、すぐに青銅の剣や鎧を作り始めたのである。 “神”としての初めての仕事が失敗に終わったことを知った瞬は失望し、そして、注意深くなった。 父が亡くなる時にも、人間たちに新しい知識を与える際には細心の注意を払うようにと遺言されていたし、瞬は父のその言葉を理解しているつもりでいた。 だが、人間の手に青銅の武器が握られている姿を見たその時に初めて、人間に知識を与えることの危険を、瞬は身をもって知ったのである。 |