氷河の肌に触れてみようと、幾度も思ったことがある。 夜の光の中で、氷河の裸体は美しく、その誘惑は幾度も瞬の許を訪れた。 至高の神が完璧を求めて刻んだ彫刻のように均整のとれた肢体は、しかし、それが彫像でないことを示すように──命の証に──、胸だけが上下している。 逆らい難いその誘惑にかられるたび、けれど、誘惑以上に強い力を持った危惧が、瞬の指をためらわせた。 触れた氷河の肌が、氷のように冷たかったらどうすればいいのだろう──と思う。 完璧なものは、冷たいもの。 それは、他者に触れられることを頑なに拒む。 自らの不完全を知っている瞬にはどうしても、その危惧を振り払うだけの勇気を奮い起こすことができなかった。 |