眠り続ける恋人を、目覚めさせる勇気がない。

目覚めれば、その人は、もしかしたら優しく微笑みかけてくれるかもしれない。
だが、そんな期待は空しいだけのものかもしれない。

その人を目覚めさせた時──“ふたり”になった時──、ふたりに何が起こるのか──。
それは、期待と不安でできている未来で、恋する者たちの胸の中では、不安の方がはるかに大きかった。

ひとりだけの世界にいれば、安全である。
ひとりだけの世界にいれば、満たされることもないが、傷付くこともない。

そうして二人は、別々の場所で、自分だけの眠れる恋人を見詰めながら、人はどうやって、この安定した世界を捨てる決意をするのだろうと、不思議に思うのだった。
哀しく、そして臆病に、そう思うのだった。






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