俺の懊悩に、瞬が気付いていたとは思えない。
瞬とのことはともかく、父親とのことまでは。
そもそも、こんな普通の・・・子供に、大人の俺が答えを求めること自体、間違っている。
だが俺は、そうせざるを得ないほどに迷っていたんだ。

瞬は、そんな俺を、しばらく無言でじっと見詰めていた。
それから、ゆっくりと口を開く。
「運命の呪縛から逃れる唯一の方法は、運命の渦の中に自ら身を投じることだと、僕は思います」

まっすぐで意思的な目を俺に向けて、瞬は、俺にそう言った。
俺は、思わず息を飲んで──。

そして、多分、俺はその時、生きている・・・・・瞬に二度惚れしてしまったんだ。
瞬は、俺よりずっと──生きることに素直で率直で賢明だ。
大胆で、決断力もある。

俺は瞬との関わりを断ってしまいたくないと、痛切に思った。
これほど美しくて聡明な人間を手放すのは、愚か者のすることだ、と。

「俺は、これからもあの家にいていいのか」
「いらしてください」
「また訪ねて来てくれるか」
「……はい」

俺が瞬に何を求めてそう言ったのか、瞬は理解してくれていた──と思う。
手を伸ばすと、瞬は、俺の腕の中にその身を投げかけてきてくれた。






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