「泣いたってどうにもならないんだ。頑張れ」 氷河は、そんなわかりきったことを言う一輝が嫌いだった。 「俺がついてるから。ずっと見ててやるから」 「う……うん……」 そして、そんな一輝の言葉に頷いて、ごしごしと涙を拭い、兄の顔を見あげて無理に笑う瞬が、もっと嫌いだった。 「ふん。そんな意味のない安っぽいセリフで泣きやめるなんて、幸せな奴だな」 「氷河……」 それは、これまで何度も出合ったことのある場面だった。 瞬が泣き、瞬の兄が弟を慰め励まし、そして瞬は泣き止む。 本当に飽きるほど、氷河は、その場面を繰り返し繰り返し見てきた──見せられてきた。 だから、氷河は、今日もそれを見る必要性を感じなかった。 麗しい兄弟愛が展開されている城戸邸のトレーニング・ジムを、氷河は乱暴な足取りで後にした。 |