「あなたたちの子供の頃の夢は何だったの?」
闘いに明け暮れていたアテナの聖闘士たちは、どうやら、自分の人生というものに明確なビジョンを持っていないらしい。
沙織は、その場にいる聖闘士たちにその端緒だけでも見い出させるべく、彼等に向き直り、尋ねた。

星矢が思い出した彼の子供の頃の夢は、
「うーん……。プロのサッカー選手になることだったかなー」
──という、実に子供らしいものだった。
沙織が、即座に、その夢を現実的な次元にまで引き上げる。
「どこかのフットボールチームに入れるように手配するわ。プレイしたいチームの希望はあるかしら」

幼い頃の夢が叶うことになるかもしれないというのに、だが、星矢はあまり乗り気な様子を見せない。
「でも、今更俺がそんな団体さんの一員になってもなぁ……」

「星矢1人で11人分のプレイができてしまいそうだな」
紫龍が横から入れてきた茶々を、沙織がきっぱりと一蹴する。
「甘いわね。サッカーというのはチームのメンバーがゲームを組み立てていくところに醍醐味のある競技でしょ。星矢が1人でゴールを決めたって、それは一発芸として受けるだけで、プレイヤーとして優れていることにはならないわ」

「…………」
沙織にきついことを言われた星矢は、それでかえって意欲が湧いてきたらしい。
このあたりのあしらいの上手さは、さすがはアテナと言うべきなのだろう。

沙織が本気で彼女の聖闘士たちの身の振りを考えているらしいことを感じとった紫龍が、僅かに真顔になる。
「俺は、叶うことなら、バイオマスかバイオメディエーション方面の研究がしたい」
「そちら方面の研究施設は、グラード財団内にいくらでもあってよ。農業関係の研究メインのところがいいかしら。捜しておくわ。──瞬は?」

「あ……あの、僕のことより、兄さんは……」
瞬が、恐る恐る沙織にお伺いをたてる。

「一輝にも連絡はとってみたんだけど、彼の望みは──」
「聞かなくてもわかる。他人から余計な干渉を受けないこと──とか何とか言ったんだろう」
紫龍の言葉に頷く代わりに、沙織は軽く肩をすくめてみせた。
一輝の望みなど、弟の幸せ以外にあるはずもない。
そして、それは、瞬自身にしか見つけ出せないものなのだから、この場に彼の出る幕はないということになる。

「そういうことね。で、瞬は? 瞬は、どんな夢を持っていたの。子供の頃」
沙織が、再度、瞬に尋ねてくる。

瞬は、あまり明瞭ではない目と意識とを、幼い頃の自分自身に馳せてみた。






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