「……そうだね。氷河はクリスチャンだもんね。魂の転生なんか信じてないんだよね。死んだら、それきり。あとは最後の審判の時を待つだけ?」
「俺は神を信じていない」
「氷河のマーマは信じていたんでしょう? 氷河は、絶対的に信じているものはないの」

「神を信じている人間を否定はしないし、神を信じていられる人間は幸福だろうと思う。だが、俺は別のものを見付けた」
「神以外に?」
「俺にとっては神以上のものだ」
「何?」
「…………」
「僕だなんて言わないでね」


「俺は、たった今、おまえに殺されても、それは俺のためにしたことだと信じていられる」
「僕は、氷河にそんなに信じてもらえるほど善良でもないし、正しくもない。そんな信頼や期待は重いだけだよ」
「期待も信頼も、愛されているものが負わなければならない宿命だ。耐えることだな」

「あっさり言ってくれるんだから……。氷河はどうなの? 僕も氷河を信じてるよ。あんな乱暴なことされても、それは氷河が僕を好きでいてくれるからだって」
「その通りだ」
「氷河が僕を殺すようなことがあったら、それは──」
「それは?」
「……僕が死を望んだ時なのかな……」

「どうだかな。おまえが俺から離れていこうとしたら、おまえを自分の側に置くために、そんな暴挙に及ぶこともあるかもしれないが……。おまえに泣かれたら、俺はおまえに負けるだろうし、何とも言えないな」
「氷河が、氷河自身のことわかっていなかったら、僕は氷河をどう信じたらいいのかわからないじゃない」

「おまえは、俺がおまえを好きだということだけ信じていればいい」
「それは……信じてるけど……」
「だから、こんなことも許した?」
「そうだよ。氷河が嬉しいことは僕も嬉しい。だから、あ……んっ」
「死ぬほど気持ちよかったのなら、もう一度してやろうか」


「駄目。今夜はもう駄目。また、あんな悲しいこと思い出したら、僕は──」
「これから、毎晩思い出すことになるぞ」
「…………」
「そして、氷河が隣りにいてくれることを確かめて、安心して、それからやっと眠るのかな、僕は、これから毎晩」

「嫌か」
「……ううん。氷河がいつもちゃんと僕の隣りにいてくれるのなら、それでいい。──そうだね。昔観た悲しい映画なんて、今が幸せなことのスパイスみたいなものなのかもしれない。でも──」
「でも?」
「今幸せでいることも、明日やってくるかもしれない不幸を鮮やかにするだけのものなのかもしれない」
「…………」






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