今では、ヒトは、世界の経営を、それに適したように作られたDBに任せ、自分たちは、DBの作り出す平和の恩恵に浴している。

DBが有しているのは、世界を支配し動かしているのは自分たちだという誇り、ヒトより優秀な存在として在ることへの自信。
ヒトが有しているのは、DBを創造したのは自分たちであるという自負、DBは自分たちの世界と幸福を守るための道具だという認識。
それぞれの立場とプライドを保ち、ヒトとDBは共存してきた。

社会の進むべき方向を決定する仕事をDBに任せ、ヒトは主に、第一次産業、第二次産業等、生産的な・・・・仕事に従事している。

その中で最も生産的な職業と言われているのが、DBをデザイン制作する仕事、“DNAデザイナー”という、学者 兼 芸術家 兼 技術者である。

ヒトは、能力的にも人格的にも自分たちより優れたDBを創り出したが、あくまでも自分たちが世界を支配しているのだと思っていたかったのかもしれない。
そのために、DNAデザイナーになる権利をヒトにのみ限り、DNAデータの占有を図った。
無論、DBの能力をもってすれば、それらのデータを入手することは容易だったろうが、そういう行為が争いを生むということを知っているDBは、無用な争いを避ける道を選んだ。

プライドを粉々に打ち砕かれた時、あるいは打ち砕かれそうになった時、感情のままに暴走を始めかねないのがヒトである。
DBは、出来の悪い親の面目を立ててやる子供の気分で、ヒトのプライドを保ってやることを決めた──もしくは、自然にそうなった。

あるいは、DBは、自分たちの設計図など見たくなかったのかもしれない。
実生活でヒトを支配しているのは自分たちなのだというプライドが、それに挑ませなかったのかもしれない。

自然・・ではないものに作られた存在だという事実は、DBに劣等感を抱かせずにおかなかった。
が、その劣等感が寛容の方向に動いたのも、DBならではの判断だったろう。

自分たちの創造神が愚鈍だということを知っている被造物。
それがDBなのである。

そして、被造物が己れの意思を持ってしまったら、創造主といえど、その意思を無視して破壊することはできない。
ヒトはDBを滅ぼす権利を持たず、そもそもDBなしではヒトは生きていけない。


いずれにしても、ヒトとDBの共存する世界は、それぞれの立場の者たちの劣等感と優越感が渾然一体に混じり合い、絶妙なバランスの上に成り立っている世界だった。






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