氷河と瞬のやりとりを、紫龍はなぜか、ひどく興味深げな笑みを口許に刻みながら眺めていた。 やがて、見詰め合っているだけで口もきかなくなった二人に焦れて、横から口を挟む。 「ところで、氷河。俺も、ヒトながら、かなりの美形だと自負しているんだが」 「貴様は致命的に可愛げがない。俺に『可愛い』と褒めてほしかったら、まず、その鬱陶しい長髪をどうにかしろ」 「長髪というのは、最初の大戦の昔から、支配への抵抗と自由を象徴するものなんだ」 「その支配層を作り出しているのが貴様だろう」 氷河の挑戦的な嫌味に、紫龍は無言で空笑いを返した。 それから、瞬の方に向き直る。 「瞬。DBなら外見がよくて当たり前だ。こいつの顔がいいのも、体格がいいのも、頭がいいのも、判断力に優れているのも、行政府や立法府の長なんていう大層な地位に就いているのも、すべてはDNAがそう仕組まれているからで、本人の努力の結果じゃない。感心する必要はないぞ。褒めるなら、こいつを作った俺の親父を褒めることだ。実際、こいつの性格は最悪だからな」 紫龍にそんなことを言われても、氷河は表情を変えない。 その手の軽侮の言葉をヒトに言われ慣れているからなのか、紫龍の口が悪いことを承知しているからなのか、いずれにしても氷河は、世界屈指のDNAデザイナーに対して一言の反論もしなかった。 むしろ、瞬の方が、紫龍の辛辣な物言いに慌ててしまったのである。 「それは……あの、確かに、この方の外見が理想的なことは、紫龍のお父さんのお手柄なのかもしれませんけど、どんなに他より優れた才能があったって、それを生かす術は自分で学ばなければならないものでしょう? ヒトより容易に目的を達成できるというだけで、ヒトだってDBだって、努力せずに何事かを達成できる人はいませんよ。人間が努力せずに成し遂げられるのは、不幸になることだけです」 そう言ってから、氷河の努力を認めるばかりでは片手落ちと思ったのか、瞬は、紫龍の父親への讃辞を続けた。 「あ、でも、ほんとに、他のDBでもこんなに綺麗な人は見たことはないです。何て言うか……計算された比率に沿ってるふうじゃなく、完璧なシンメトリーで描かれてるわけでもないのに、絶妙なバランスが、全体をすごく綺麗に見せてて──。紫龍のお父さんは本当に素晴らしい芸術家だと思います」 「俺は、こいつに勝るとも劣らないほど綺麗な 「こんなに綺麗な 半ば以上信じられないと言わんばかりの口調で、瞬が尋ねる。 氷河は、その段になって初めて、無表情以外の表情を作って、紫龍をきつく睨みつけた。 紫龍の言う『こいつに勝るとも劣らないほど綺麗な“ヒト”』が何者なのかを知っている顔だった。 紫龍は、氷河の無言の脅しに恐れ入ったように肩をすくめ、史上最高のDBの前から慌てた様子で退散していった。 |