『好き』という言葉が不思議な力を内包しているのは、おそらく事実である。
それは、人に、人生のすべてがうまくいくような予感を与え、その胸の内に、どんな困難をも乗り越えていけるような勇気を生む。
大抵の誤解を解き、反抗心や攻撃性を萎えさせ、嫌悪の感情を打ち消し、不安をも消し去る言葉。
ネガティブな思考と感情に、正面から対抗しえて、しかも勝利する言葉。
それは、世界が輝いて見える言葉なのだ。

その言葉を、瞬は氷河に告げられた。
瞬が嬉しくて楽しい気分になるのは当然のことなのである。
それは本当に、素晴らしく素敵な言葉なのだから。


その素晴らしい言葉を与えてくれた氷河に、この上なく幸せそうな笑顔を向けて、瞬は言った。
「『好きだよ』って──僕が言っても、僕とおんなじように、みんなが幸せな気分になってくれるのかなぁ……。僕、ためしに、星矢たちに言ってみようかな」
──と。

(なにぃ……っ !? )


『好き』という言葉は、実に美しく優れた言葉である。
それは、その言葉を言う人間と、言われる人間とを、同時に幸福にする。
それは、誰にとっても──もちろん、氷河と瞬にとっても──“言葉”の中で最も素晴らしいものであるに違いない。

ただ一つの問題は、瞬が、氷河の告げた『好き』の意味を正しく理解していないということだった。






Fin.






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