梅雨の季節は終わりかけていた。
7月になったばかりの午後の空は、本格的な夏の到来に向けて、青い色を濃くし始めている。
夏があまり得意ではない氷河のために、瞬は、城戸邸の裏庭にある小さな木立ちの中に、彼を引っ張っていった。
初夏の陽光と木々の緑が、真夏のそれほどにはコントラストのない光と影を作っている。

やわらかい木漏れ日の中で、瞬は氷河が話の口火を切ってくれることを期待したのだが、氷河は同じことを瞬に期待しているようだった。
星矢の下品な図星に至るまでの経緯を、氷河は知らないのであるから、それは致し方ないことである。

しばしためらってから、覚悟を決めて、瞬は口を開いた。
そして、星矢の図星に至る経緯を省いて、用件だけを言葉にした。
「氷河、そういうの嫌いなの」

「…………」
氷河の返事がないことが、瞬を気まずい気持ちにさせる。
取り繕うように、瞬は言葉を重ねた。
「あっあの、それならそれでいいんだよ! 僕も別に──ただ、普通はそうなるものなんだろうって思ってたから、あの……もしそうするんなら、突然だとびっくりすから、心の準備期間が欲しいなーって思ってただけで、だから、あの、別に……」

その先は言葉にしにくい。
瞬は適切な言葉を見付けだせずに口ごもり、やがて、言葉を探すことを諦めた。

そうなってから、氷河がやっと口を開く。
至極真剣な顔で、彼は瞬に告げた。
「俺は──俺は、おまえが好きで、いつも一緒にいられたらいいと思った。おまえが俺以外の誰かのものになるのも嫌だった。だから、おまえに好きだと告白した。おまえにとって特別な立場の者になれば、おまえへの優先権が得られて、自分では抑制しきれない独占欲も多少は大目に見てもらえるようになるだろうと思ったし、一緒にいられる時間も長くなる。セックスもしたくないわけじゃない。むしろ、したい」

氷河は飾り立てたレトリックを使わなかった。
氷河に、極めて直截的かつ端的な語を用いて明快な意思表示をされた瞬は、ぽっと頬を赤らめた。

「あの、それなら僕……」
3ヶ月、あったのである。
瞬は心の準備など、とうの昔に済ませていた──つもりでいた。

が、はっきりした意思表示に続いて氷河の口から発せられたのは、実に思いがけない言葉だったのである。






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