「氷河……っ!」
疼く身体を抑えてベッドから抜け出した瞬王子が、床に倒れた氷河王子の身体をその膝の上に抱き起こした時、氷河王子は既に息をしていませんでした。

たった今まで、とてつもなく元気だった氷河王子の突然の死。
瞬王子は、まるで訳がわかりませんでした。
既に心音も聞こえなくなった氷河王子の身体を抱きしめて、瞬王子は、ただ呆然とするばかりだったのです。

そこに、どこからともなく、カニ好きの妖精が姿を現します。
「ふははははは。愚かなり、氷河王子! 自分の迂闊さとスケベ心を、あの世で悔やむがいい!」

どこからともなく現れたかと思うと、前触れもなく勝ち誇った高笑いを響かせ始めたカニ好きの妖精に戸惑いつつ、瞬王子は、今にも泣き出しそうな眼差しを彼に向けました。
「いったい、これは……」
「ははははは。この助平な王子はな、どうしてもおまえとヤりたくて、俺と賭けをしたのだ。無防備なおまえを目の前にして、朝まで理性を保てるかどうかという賭けをな。そして、まんまと俺の計略にはまり、見事に大往生を遂げたというわけだ!」

カニ好きの妖精のその言葉を聞いた瞬王子の嘆きは、海よりも深いものでした。
どんどん冷たくなっていく氷河王子の身体を一層強く抱きしめて、瞬王子は呻吟しました。
「そんな……僕は、××なんてできなくたって、そんなこと全然構わなかったのに。氷河が生きていてくれるだけでよかったのに。僕のために……何てことを……」

氷河王子がカニ好きの妖精のところに直談判に行ったのは、瞬王子のためというより氷河王子自身のためだったような気もしますが、死者を貶めるのは、あまり品のいいことではありません。
氷河王子はあくまでも、美しい愛のために命を失ったとする方が童話的です。
なので、この場は、そういうことにしておきましょう。
氷河王子は、瞬王子への愛のために、命を落としたのです。






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