俺に身体の中に押し入られた瞬が、その唇からほとばしらせた小さな悲鳴は、秋の虫たちの盛大な合唱に比べればささやかなものだった。
だが、それは、艶やかで悩ましく、不思議に清潔で透き通っている。

頑なに自分の夢と理想を守り続ける強さと、自分の夢のために仲間たちを切り捨てることのできない弱さとが、瞬の中では切なく絡み合っていて、俺の心と身体はその中に入っていく。
瞬の中の矛盾は俺を捕らえ、俺はその瞬間がたまらなく好きだった。

美しい夢と、その夢を否定する闘いという行為。
その二つが、当然のものとして瞬の中に存在することは、偽善だろうか。
瞬は偽善者と蔑まされて当然の人間だろうか。

──そんなはずはない。

瞬は人間的で──あまりに人間的に、瞬は優しすぎるんだ。
瞬を理解しない者たちは、それを偽善と呼び、瞬を知る者たちは、それを優しさと呼ぶ。
それだけのこと。

「ん……っ、あっ……ん」
瞬の鳴き声は、いつ聞いても、耳に心地良く可愛らしい。

俺が瞬の母親になれないのは、いいことなのかもしれない。
聖母のように高尚なモノでないおかげで、俺は瞬をこんなふうに鳴かせることができる。
身体を交えることの快美に我を忘れ、悪い夢を見る暇もなく、瞬を理解できない馬鹿な輩に投げつけられた言葉など瞬が思い出すこともできなくなるほどに、俺は、瞬を忘我の境に連れて行ってやることができるのだから。

この夜は、“母親”には望むべくもない夜。
そして、長い秋の夜は始まったばかりだ。






Fin.






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