数日後。
瞬を地球に移住させる手続きをするために向かった移民局のあるビルで、氷河と瞬は、おそらくパートナー登録しにきたのであろう緑色の髪の二人連れに出会った。
互いをいたわるように、ゆったりとした歩調でビルを出ていく二人の老人の姿は、氷河の目にとても美しいものに映った。

「ああいうのを真に愛し合っている二人と言うのかもしれない」
ゲゼルにも当然、外見の魅力や種の保存の欲望だけに支配されず、愛し合い恋し合っている者たちは大勢いるのである。
考えるまでもない、当たり前のことだった。
どんな合理性や利便の前にも、どれほどわかりやすい“記号”の前にも、人は心を捨てることはできないのだから。

ゲゼルではもしかしたら、嘘をつくこともできる言葉などより、はるかに信頼に足る肉体の変化という“記号”が、真実の愛を確認することの妨げになっているのかもしれなかった。
それは大いなる矛盾、ではあったが。

目に見えるものだけで、人の心を判断するのは危険なことであり、それが全てだと思い込むのは更に危険なことである。
真実は、目に見える物事の陰に、ひっそりと隠れているものなのかもしれない。
そして、その真実を見逃したら、人は不幸になることも幸せになり損ねることもあるのだ。

人は、時には目を閉じて、目に見えるもの以外の真実に思いを馳せる機会を多く持つようにした方がいいのだろう。
と、氷河は思った。
他の誰でもない氷河自身が、もっと早くにそうしていれば、瞬が自分を好きでいてくれることに、もっと早く気付くことができていたはずだったのだから。






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