そういうわけで、瞬の脅迫絡みの諸々もろもろのことが、星矢にはどうにも合点がいかず、かつ歓迎できないことだったのである。
星矢は露骨に不満げな顔を作った。
そんな星矢を横目に見て、氷河が、にやりと嫌ら・・しい・・笑みを唇の端に刻む。
そして、彼は言った。
「俺は、瞬が俺に命令してくるのを待ってるんだ」
「何をだよ」
「あの件をバラされたくなかったら、自分と一緒に寝ろ。──と、瞬が言い出すのを」

「へ……?」
星矢が、その言い草にはさすがに虚を衝かれたらしく、一瞬ぽかんと間の抜けた顔になる。
何とか気を取り直すのに、星矢は、たっぷり1分間の時間を要した。
「そんなこと、あるわけねーじゃん! おまえ、それやろうとして、ネビュラストーム食らったばっかなんだろ!」
「まあ、それはそうだが」

その事実を忘れてしまったわけではないらしい。
しかし氷河は、相変わらず飄々ひょうひょうとした態度を崩そうとはしなかった。
「俺は瞬を好きだし、瞬は俺を好きだし、俺がその気満々でいることは瞬も承知しているんだ。瞬がOKを出しさえすれば、事は成就する。すべては丸く収まる。瞬は、多分、そう遠くない未来に、俺と一緒に寝てくれと言ってくるさ」

そのとてつもない自信の根拠は何なのかと、星矢は氷河を問い質さずにはいられなかったのである。
氷河の答えは、
「瞬を見ていれば、わかる」
という、納得できるようなできないような、納得していいのか悪いのかの判断に迷うような代物だった。

その合点のいかない根拠を口にしてから、氷河は、つけたしのように、
「無論、俺が瞬を見ているのは、俺が瞬に惚れているからだぞ」
と、言葉を重ねた。






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