俺が瞬に出会ったのは、俺がまだクソ生意気盛りのガキでいた頃だった。
それは最初は、その年頃のガキにありがちな、目につく範囲内にいる中でいちばん可愛い同年代の子に対する 淡い初恋──の域を出ていないものだったかもしれない。

だが、その淡い初恋は、数年間のブランクを経ても一向に冷めることなく、いよいよ熱く激しく大きな炎へと成長していった。
なぜ瞬なのかと悩み迷い(なにしろ、いくら可愛くて綺麗でも、瞬は男だ)、あちこち ふらふらしてみたりもしたのだが、結局、俺の恋は原点に戻る。

この世界には瞬以上の誰かは存在しないのだと確信した後の俺は、もうよそ見をすることはなかった。
『目標を決めたら、その目標に向かって一直線。外野は無視』が俺の身上だ。
口説きに口説き、瞬の望むことは何でも叶えてやり、忠犬キグ公と仲間たちに馬鹿にされ続けても、俺は決してひるまなかった。

瞬は、最初は、俺の言葉も行動も、すべてを冗談だと思っていたらしい。
それが冗談なんかじゃないことに気付いた時には、戸惑うばかりだったらしい。
俺は、俺の真情を瞬にわかってもらうために、それはもう涙ぐましいほどの努力を続けた。

惚れた相手に自分を受け入れてもらうために、餌を捧げ続けるシマフクロウ。
メスの気に入る巣ができるまで、幾度でも巣作りをするオウゴンヤシハタオリドリ。
陽が暮れるまで羽を広げて踊り狂うインドクジャクに、声が枯れるまで歌い踊るタンチョウヅル。
全身全霊で命懸けの求愛活動をするどんな鳥たちも、俺の血のにじむような努力と不屈の闘志の前には、そのこうべを垂れるに違いない。

努力の甲斐あって、俺は3ヶ月前、ついに、瞬の『僕も氷河が好き』を手に入れた。
その日のうちに、瞬の唇をいただいた。
瞬の羞恥心と臆病のせいで──もとい、慎重な性質のせいで──なかなか そこから先に進展しないのには苦労したが(互いに好意を抱き合っていることがわかっているのに、それを身体で確認し合えないというのは、誰にとっても苦痛でしかないだろう)、俺のたゆまぬ努力は、ついに、瞬の羞恥や臆病の心を打ち砕くことに成功した。

そうして、ついに、やっと、めでたく迎えた二人だけの夜と朝。
俺のこの感激は、やはり、本田宗一郎や盛田昭夫にだってわかるまい。
それは、この広い世界にただ一人、この俺にしかわからない歓喜と感激なんだ。






【next】