「へ……?」
それはいったいどういうことだ?
俺との××が──良すぎて怖い?

「だから、必然的におまえの顔を見るのも怖いんだとさ」
「は?」
間の抜けた応答しかできずにいる俺の前をすり抜けて、星矢は、ラウンジの中央にある一人掛けのソファに身を沈めた。
そして、その判決文に至った経緯の説明を始めた。

「瞬の奴さぁ、自分の無知のせいでおまえに迷惑かけたくなかったから、瞬なりに色々勉強したんだと」
「勉強?」
俺の反問に、少しく疲労の混じった表情で星矢が頷く。
瞬がした勉強というのは、つまり、ナニについての勉強、ということだろうか?
そんなことを、瞬が、俺のためにしてくれていた──のか?

「…………」
なんとゆーか、それは至極感動的なことだった。
星矢のその言葉は、俺をいたく感動させた。
あの瞬が俺のために、どう考えても超苦手分野を必死に勉強してくれていた──というんだから、それは感動するなという方が無理な話だろう。
瞬はきっと真っ赤になりながら、へたをすると涙目にまでなって、その恥ずかしい勉強を俺のためにしてくれたに違いない。

なんて可愛いことをしてくれるんだ、俺の瞬は!
俺に協力を要請してくれさえたら、瞬のシマフクロウの俺は喜んで、瞬の家庭教師にでも何にでもなってやったのに!
そして、手取り足取りみっちりじっくり……。
──と、にやけている場合じゃない。
俺は、慌てて気を引き締めた。

俺が何を考えていたのか察したらしい星矢が、嫌そうな顔になって、先を続ける。
「で、その勉強の結果、瞬は、それは非常に痛いものだという結論に達した──らしい。その苦痛に耐えることが、まあ、その、おまえを好きだってことの証になるんだと、自分に言い聞かせて、瞬は、決死の覚悟でおまえとのナニに臨んだわけだ。ところが──」

ところが、それが意外にも気持ち良かった──と?

「おまえ、問題の夜に、瞬にクサいセリフを雨あられと言いまくったんだって? 最初のうちは、自分はそんな大層なもんじゃないし、おまえは何か重大な誤解をしてるのかもしれないとか、乱視なのかもしれないとか思ってたらしいけど、そのうちに、瞬の奴、おまえのクサいセリフに酔って、ぽーっとなってきちまったんだと。おまけに、おまえは瞬の身体をあちこち触りまくって、瞬は、触られてるうちに、アタマだけじゃなくカラダの方まで酔ってるみたいになって──要するに、瞬は、心身共に泥酔状態になった。そんなふうになっちまった後は、何をしたのか憶えてないとか、何かとんでもないこと口走ったとか、ハシタナイおねだりをしちまったとか──。瞬の奴、俺に話してる途中から泣き出しちまったんで、後半は、何言ってるんだか、あんまり要領得なかったんだけどさー」

星矢は、そんなことを口にするのも阿呆らしいと思っているようだった。
あくまでもどこまでも投げ遣りに、彼なりの結論を口にする。
「おまえ、多分、サービス過剰すぎたんだよ。テキトーに13分くらいで切り上げときゃよかったのに」

その妙に具体的な時間は、どこから湧いてきた数字だ !?
いや、それはともかく。

「あんなに気持ちのいいもの、氷河より好きになりそうで怖い──んだとさ。なんか、あれは氷河じゃないとか、変なことも言ってたなぁ」

こういう場合、俺は、

「おんなじこと、俺もしてやれるぜって言ってみたら、それは嫌だって言ってたから、おまえじゃないと駄目なことはわかってるみたいだったけど」

俺は、いったいどうすればいいんだ?






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