おろしや国氷瞬譚






昔々オロシヤ国という国に、大層女嫌いらしい王子様がいました。

『らしい』というのは、王子様がご自分で、「俺は女嫌いだ」と公言したことがなかったからです。
けれど、その気になれば綺麗なお姫様はよりどりみどりの立場にいるというのに、王子様には浮いた噂ひとつありません。
それで、国民たちは、勝手にそう噂していたのです。

女嫌いと言えば、ほもに決まっています。
いえ、決まってはいないのですが、オロシヤ国の国民の脳内ではそういうことになっていました。
なにしろ、オロシヤ国の国民は非常に噂好きで、想像力と妄想力と飛躍力に優れているので有名なのです。

ところで、その王子様は、なかなか強引で我儘な王子様でした。
言葉を変えて言うなら、大変に決断力と実行力に優れ、また一本気でもありました。

生活上での不自由というのをしたことがありませんでしたし、お父様の国王以外に王子様より身分の高い人は国内にいませんでしたからね。
王子様の望みが叶えられないということは滅多になく、そういう人間の常として、王子様はかなり我儘だったのです。
絶対王政期の一国の王子としては、普通レベルに。

そういう王子様でしたから、ほもはほもでも、攻めなほもだろうと言われていました。
もちろん、これも国民たちの噂です。
『強引で我儘な王子様 イコール 攻め』という決めつけは今時流行らないというので、王子様は受けだと思っている国民もそれなりにいましたよ。

ちなみに、この王子様のお名前は氷河といいます。






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